ぶっちぎりインターネット

第6回
『ネットの怪奇現象!世にも不思議な物語・・・』





ま〜るで霊感のない俺。
だもんで心霊現象とは全然縁がない・・・
仲間内でオカルト話に花が咲く時でも、俺はもっぱら聞き役である。

嗚呼〜あこがれの怪奇現象。
今回はそんな話題。



『横浜銀蝿のぶっちぎりインターネット』(DOS/V USER 10月号 原稿)


《タイトル》
ネットの怪奇現象!世にも不思議な物語・・・


《本文》
いきなりで何なんだが俺には霊感がない
よって世間でいう所の心霊現象にはまるで縁がないのである。

よくこの季節、守護霊が見えたとか、ポルターガイストでひどいめにあったとか、
予知夢を観たとか、霊に身体を乗っ取られたとか、スプーンが曲がったとか、
亀頭に顔が写ったとか(見栄張るな!)、万馬券を当てたとか(は?)の、
仲間がこの夏に遭遇した、まるでテレビで見るようなカッコイイオカルト体験談で
盛り上がる中、霊感の“れ”の字もない俺は、そんな時ただただ聞き役で、
みんなが自慢げに話しているのを横目に、
「う・・俺も自分の心霊体験を人に自慢したい・・・」と
内心とっても羨ましがっているのだ。

だから、俺の心霊デビューは一体何時になるのであろうかと、
まるで初体験前の生娘のように、期待と不安でワクワクしながら、
今年こそはと、毎年夏を迎えるのである。

で、とうとう今年も夏が終わり、
結局は今年も心霊現象の収穫期(シーズン)を
指をくわえて無駄に過ごしてしまったのだ。

当初の予定では今月号のこのページで、どうだぁ!とばかりに
俺様自慢の素晴しいオカルト体験を御披露するつもりであったのだが、
心霊体験では基礎の基礎、“カナシバリ”にさえ恵まれずに
今年の夏も、怪奇現象なんて匂いさえしない日常であった。

それにしても何でこう恐い話ってのは楽しいのであろうか?
誰にでも“恐いモノ見たさ”があるんですな、やっぱ。

それと迷信おまじないも以外に幅をきかせている。
例えば道路で霊柩車を見た時に、
必ず親指をかくす読者って、きっと多いのではなかろうか?

ところで恐いノモといえば、昔は地震・雷・火事・親父ってのが定番だった
らしいが、今は一体何が恐いんだろう?
食中毒・ダイオキシン・ローンの取立・成人病
そして、んでやっぱ幽霊ってカンジですかね?
いやいや、男性諸君はなんたって浮気の発覚が一番かん?

それはそうと、ネットの世界にも、
心霊・怪奇現象の報告例が多々存在する。

横浜在住のM君(21)。
彼はどちらかというと、とっても内向的地味なタイプ。
学校でも職場でも、いるんだかいないんだかわからないカンジ。
誰も彼の存在など気にもしない、もちろん友達なんて1人もいない

生まれてこのかたずーっと寂しい思いをして暮らしてきたそんな彼が、
ふとしたきっかけでネットを始めた。

今まで誰とも心を通わせる事の出来なかった内気で人づきあいの苦手な彼も、
不思議と文字でのやりとりなら自分の心を他人に開く事ができた。
そしてあるサイトの伝言板で神戸に住むK君(21)と知り合う。

2人はタメ。そしてまったくと言っていいほど、
今までの境遇・性格・そして生き方が似ていた
心の乾き、痛み、そして傷あと、お互いのそのすべてが、
ディスプレイを通しての文字のやりとりだけで手に取るように理解しあえた。
そうお互いに、この世で始めて出会った友達である。

2人はネットで、毎日の寂しさや悲しさ、そして苦悩を共に分かち合い、
そのうちに、お互いにとってなくてはならない親友となっていった。

M君にとってはK君とのやりとりだけが、世界の全てであり、
そしてその世界だけが、M君に生きている事を実感させ、
人生に意味をもたせてくれる唯一のコミュニケーションだった。
「こいつだけは自分をわかってくれる。こいつだけが俺の味方なんだ。」
相手のK君にとってもそれは同様だった。

そんなやりとりが2年ほど続いたある日。
M君はついにK君に会いに行く事を決意する。
「10月20日はK君は誕生日って言ってたな。
その日に、内緒でいきなりプレゼント持って神戸まで訪ねて行って驚かしてやろう。
きっと俺が行ったら喜んでくれるはずだ。」

そもそも自分以外の人間との実際の交流らしい交流を、
今までまったくと言っていい程した事のないM君にとって、
それはまさに決死のイベント計画であった。
しかし、彼はもう以前のM君ではない。
無二の親友K君の存在が、彼の性格までをもポジティブに変化させていた。

相変わらずのK君との毎日のネットでの会話の途中、
何度計画を話したくなったであろうか?
その度にその気持ちをグっと堪えて、
来る10月20日のサプライズ計画を進めていた。

そしてとうとう、待ちに待ったその日がやって来た。
M君にとっては旅行らしい旅行なんてもちろん始めてである。
ましてや今や大親友であり、この世で唯一の自分の理解者、K君に会いに行くのだ。
プレゼントの入ったバッグと、いつも使っているノートPCと携帯を持って、
ワクワクしながら新幹線で一路神戸まで。
途中でも、こんな話あんな話と、
実際に対面して、意気投合している2人の姿を思い浮かべ、
期待をふくらませ、まさに夢ごこちであった。
そして神戸に着くと、以前なにげにK君から聞いておいた住所を頼りに彼の家を探す。

「・・・ここだ。」

ようやく探しあてた時、時計はすでに午後4:00をまわっていた。
あたりをかなり歩いたんで、ちょっと額に汗ばみながらその家を見上げるM君の眼に、
大きな門の表札に彫られている、K君の名字と同じ文字が見えた。
閑静な住宅街、T字路の突き当たりにあるかなり立派な洋館である。
敷地もかなり広い、ゆうに200坪はあるだろう。

「へぇ。こんなデッカイ家に住んでるんだ。お父さん会社かなんかやってんのか?
とにかく、ICQで、たいがい毎日家にいるよって言ってたよな。
きっと俺と同じで、ネット以外はつまんない毎日なんだろうから、
いきなり俺が来たらきっとビックリすんだろうな。あはは。」

まだ実際には会った事もない、それでも大の親友であるK君の、
驚いた、そして自分だと知った時の、とっても喜んだ笑顔を想像しながら、
ちょっとドキドキしながら呼び鈴を押すM君。

しばらくして中から現われたのはたぶんK君のお母さんだろう、
上品な中年の女性が玄関を出て、彼のいる門の所までやってくる。

「どちら様でしょうか?」
「あ・・あの、僕、Mと申します。今日は10月20日なんで、
K君に会いにはるばる横浜からやってきました。」

「・・・・」

一瞬驚いた表情を見せたその女性。
しかしすぐ、嬉しそうな、それでいて悲しさの漂う笑顔をみせて、

「わざわざありがとうございます。お友達の方ですか?
いつも1人ぼっちの、とても人付き合いが苦手な子でしたから、
まさか、こうやってお友達が訪ねていらっしゃるなんて・・・失礼いたしました。
Kもきっと喜ぶでしょう。どうぞ、中にお入り下さい。」

玄関ホールからの長い廊下をそのまま彼女について
奥のK君の部屋まで案内されていくM君。
歩きながら、とてもやさしい声で話を続けるK君のお母さん。

「早いものですね。今日10月20日でもう2周忌になります。
私は時々、まだあの子が奥の自分の部屋にいるような気がするんですよ。
だからすべてあの頃のままにしてあります。」

・・!?」


通された部屋には、先程、門の前で彼が想像した通り
うれしそうな笑顔をしたK君の遺影が飾られてあった。
そして、彼がいた頃のままに保たれているこの部屋の机には、
立ち上げたままのPC
もちろん画面には、2人が知り合ったいつもの伝言板と、
M君のIDだけが登録してある、ICQのウインドが表示されていた。

昨夜までM君とネットでやりとりをしていたはずのK君は・・・
そう・・・M君が生まれて始めて出会った、かけがえのない友達であり、
M君にとって、この世で唯一の味方だったK君は・・・
そしてこの2年間、M君のすべての支えであったはずの、あの大親友のK君は、
すでに2年前の今日、この部屋で自殺していたのである。

ネットのK君の誕生日、今日10月20日は、
この部屋に住んでいたK君命日だった・・・。

-了-






   BACK
| ホーム | 横浜銀蝿 | TAKU |




Produced by TAKU for N.A.P